蛭ヶ谷の田遊びは、年の初めに稲作の様を模擬的に演じて稲の豊作を祈願する予祝の民俗芸能で、毎年２月１１日、蛭児（ひるこ）神社境内に積み上げられた薪の点火を合図に、夕刻から夜更けにかけて演じられている。
演目は番外２番を含めた１７演目を伝承する。前半には「本刀振り」「長本刀振り」などの儀式的な演目があり、後半には「田打ち」「田植え」「稲刈り」などの 稲作の様を模擬的に演じる次第が続く。儀式的な演目では、演じ手が太刀や木刀などを振り下ろしたり、反り返るなどの所作を東西南北それぞれに向かって行う。これらの演目は場を浄めるものとされ、「四方切り」と総称される。
また、杉の葉を束ねて作った「ほた小僧」と呼ばれる人形が登場する演目がある。ほた小僧を藁縄に結びつけ、青年達が引き回したり、田遊びの最後に社殿脇のサクラの幹に結び付けるなどする。
全演目とも楽器は用いられず､演じ手のかけ声や唱え､所作によって進行する。
本件は、儀式的な次第と稲作の様を模擬的に演じる次第からなる東海地方の田遊びの構成を良く伝えている。また、稲魂の象徴と考えられる人形を用いた次第や、多様な餅の使用、全演目を通じて楽器を使用しないなどの特色がある。