教育にかけた情熱
しずおか遺産「近代教育に情熱をかけたしずおか人の結晶」から
1872年、明治政府は「学制」を発布し、近代的な学校教育制度をスタートさせました。日本が独立国家として存続し、欧米列強に追いつくためには、「国民皆学(すべての国民に教育を受けさせること)」が最重要であると考えたからです。
学制の発布を受けて、全国各地に学校が開校します。当初は寺院などを仮校舎としていましたが、「これからの新時代をになう子どもたちに、良い環境で勉強させたい」との思いから、新校舎の建設の機運が高まってきました。
しかし校舎建設にあたって、国の補助金は十分ではありません。教育者は学校教育の重要性を説き、資産家は大金や敷地等を提供し、地域住民は寄付や労役で協力しました。新校舎の建築は、地域を挙げた一大プロジェクトだったのです。
いまも県内には、明治初期の学校校舎の一部が残っています。当時の建築技術を凝らした建物からは、明治の人々が子どもたちに託した、未来への希望が浮かび上がってきます。
参考
→ しずおか遺産「近代教育に情熱をかけたしずおか人の結晶」
→ 動画を見る
Index
日本最古の木造小学校校舎「旧見付学校」
旧見付(みつけ)学校[国指定史跡]は、学制発布からわずか3年後、1875年に建設されました。塔をのせた擬洋風建築(ぎようふうけんちく)の建物は、現存するものとしては、日本最古の木造小学校校舎です。建物の基礎には、廃城となった横須賀城の石垣が使われており、ここにも時代を感じさせます。
見付学校の校舎建設にあたっては、淡海國玉(おうみくにたま)神社[県指定建造物]の神官で国学者の大久保忠尚が学校の敷地を提供しました。また、地域住民のほとんどが寄付に応じたとも伝えられています。
現在、建物は教育資料館となっており、明治から大正の頃の教科書やオルガン、授業風景復元模型などが展示されています。
校舎の北側にある磐田文庫[国指定史跡]は、学校の敷地を提供した大久保忠尚によって、1864年に設立された私設図書館です。見付学校の開校にともなって、磐田文庫の建物と蔵書は、学校に寄贈されました。
見付のまちは東海道の宿場町の見附宿として栄え、寺子屋や私塾などの教育に熱心な地域で、忠尚も私塾を開くなど、教育者としての一面もありました。
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旧見付学校[国指定史跡]
住所:静岡県磐田市見付2452
電話:0538-32-4511
駐車場:あり
見学所要時間(参考):30分
見付学校に敷地を提供した「淡海国玉神社」
旧見付学校の隣にある淡海国玉(おうみくにたま)神社は、平安時代の創建とされる遠江国総社であり、三間社流造り檜皮ぶきの本殿[県指定建造物]は、江戸前期の代表的な神社建築です。
明治時代の神官大久保忠尚は、旧見付学校の敷地を提供し、磐田文庫を寄贈しています。旧見付学校は大正時代まで小学校校舎として使われましたが、境内は生徒たちの運動場になっていました。
神社の東にある天御子神社は、境内の飛び地です。毎年7月には、淡海国玉神社と天御子神社で祇園祭が行われます。
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淡海国玉神社本殿[県指定建造物]
住所:静岡県磐田市見付2452-2
電話:0538-33-1222(磐田市観光協会)
駐車場:あり(旧見付学校駐車場利用)
参拝所要時間(参考):15分
学問の神、菅原道真をまつる「矢奈比売神社(見付天神)」
矢奈比売(やなひめ)神社[国指定無形民俗文化財伝承]は、「見付天神」の通称で親しまれている神社です。主祭神は矢奈比賣命(やなひめのみこと)ですが、相殿には学問の神様の菅原道真公がまつられています。
境内には、霊犬神社という小さな社があります。まつられているのは、見付のまちの人々を苦しめた妖怪を退治した「しっぺい太郎」という霊犬です。参道の赤鳥居の横には、しっぺい太郎の像も建てられています。
また、毎年9月には見付天神裸祭[国指定無形民俗文化財]が行われます。矢奈比売神社から淡海国玉神社までを上半身裸の男たちが練り歩く、天下の奇祭として有名です。
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矢奈比売神社[国指定無形民俗文化財伝承]
住所:静岡県磐田市見付1114-2
電話:0538-32-5298
駐車場:あり
拝観所要時間(参考):60分(建物内の見学含む)
森町のまちなみに溶け込んだ「旧城下学校」
旧城下学校[町指定建造物]は、1884年に建設されました。現存する木造校舎としては、旧見付学校、旧岩科学校に続き、県内で3番目に古い建物です。
城下学校のある森町は、秋葉街道の宿場町として発展しました。平屋建ての純和風建築の城下小学校は、「遠州の小京都」とうたわれた森町の街並みとも、よく調和しています。玄関を入ると、部屋ではなく講堂のような造りです。現在は老人憩いの家として利用されていますが、建物の屋根には旧字体の「學」が刻まれた鬼瓦があり、明治時代の小学校だったことが偲ばれます。
建物のある城下地区には旧庄屋の家々とともに古い町なみが残ります。
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旧城下学校[町指定建造物]
住所:静岡県周智郡森町城下622
電話:0538-85-6316(森町観光協会)
駐車場:あり
見学所要時間(参考):10分
二宮尊徳の報徳思想を伝える「大日本報徳社」
大日本報徳社[国指定建造物等有]の大講堂[国指定建造物]は、1903年、道徳と経済の調和を説いた二宮尊徳(にのみや そんとく)の「報徳思想」を広めるための拠点として建設されました。日本瓦の大屋根、漆喰塗りの外壁、洋風の丸窓等の和洋折衷の建物は、現存する公会堂としては日本最古です。
二宮尊徳は幼名を「金次郎」といい、戦前の修身(道徳)の教科書には模範的な少年として描かれた人物です。かつては、全国の小学校の校庭に薪を背負って勉学に励む「二宮金次郎像」が建てられていました。
大日本報徳社には、大講堂の他にも、花崗岩製の正門[県指定建造物]、二宮尊徳の弟子の岡田良一郎が開いた私塾、冀北(きほく)学舎[県指定建造物]など、明治期の貴重な建造物が残っています。
※大日本報徳社は、しずおか遺産「近代教育に情熱をかけたしずおか人の結晶」には含まれません。
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大日本報徳社[国指定建造物等有]
住所:静岡県掛川市掛川1176
電話:0537-22-3016
駐車場:あり
見学所要時間(参考):30分
見付天神祭の名物、「粟餅(あわもち)」で一服
旧見付学校から徒歩5分、老舗の和菓子店の井口製菓では、見付天神裸祭[国指定重要無形民俗文化財]に欠かせない名物「粟餅(あわもち)」を年中販売しています。粟餅は、粉にひいた粟をお餅に入れて餡で包みこんだお菓子で、モチモチと柔らかな食感と甘めは控えめの懐かしい味わいです。また、裸祭にも登場する霊犬をモチーフにした「しっぺい太郎最中」も人気があります。
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井口製菓
住所/静岡県磐田市見付2663
なまこ壁の擬洋風建築の学舎「旧岩科学校」
旧岩科学校[国指定重要文化財]は、1880年に建てられた、伊豆地域で最古の小学校の校舎です。松崎町の民家でよく見られる「なまこ壁」と、「洋風のバルコニー」を組み合わせた和洋折衷の建物は、明治期の擬洋風建築の傑作として知られています。二階奥の客間「鶴の間」の欄間に描かれた千羽鶴の漆喰鏝絵(しっくいこてえ)は、名工・入江長八の作品です。
現在、建物は資料館となっており、明治期の教育資料や当時の授業風景を再現した人形等が展示されています。
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旧岩科学校[国指定重要文化財]
住所:静岡県賀茂郡松崎町岩科北側442
電話:0558-42-2675
駐車場:あり
見学所要時間(参考):40分
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